2021年04月01日

新型コロナ調べ(第4回) 実際の感染者数(年代別)データを用いて重症病床使用数をシミュレーションしてみると・・・?




新型コロナ調べの第4回目となる今回は、実際に公表されている「1日の感染者数」 のデータを使用して、重症病床使用数の推移をシミュレーションした結果をまとめていきます。重症病床使用数がなかなか減らないのはなぜかを理解するために自作したモデルですが、このような簡易モデルで計算した重症病床使用数の値と、実際に公表されている重症者数や死者数の公表値を比較してみると、「計算値と公表値が意外と一致するなぁ」と感じられる時期があったり、「全然一致しないけど、何故だろう?」という時期もあったり。

「計算値と公表値がよく一致するモデルが作れました」という具合になかなか話が進まない理由としては、モデルで設定している単純な状況とは異なる、もっと複雑な事態が現実には起きるからなのですが、それでは、現実にはどのような事態が起こっているのか。シミュレーションを使ってできる範囲で迫っていきたいと思います。

毎度の注意点です→ シミュレーションの計算値は、あくまでも様々な仮定に基づいた計算値なので、現実の公表されている数値などと混同しないようにお願いします。
医療分野の専門家でもなんでもない個人が作成した自由研究ノートを眺める感じでお読みくださいねヒ・ミ・ツ


《前回までのおさらい》
第1回の記事;1日の感染者数のうち重症化しやすい人の割合が2倍になれば、重症病床使用数も2倍になる。
第2回の記事:重症者が重症病床を使用する日数が長期間になるほど、重症病床は逼迫しやすい。
第3回の記事:感染者数の波が2回続けて起きる場合、波と波の間隔が狭くなるほど、2回目の波が来た際の重症病床使用数は逼迫するリスクが高まる。
以上の通り、重症病床使用数と感染者数の関係についての基本的な点を、簡易的なシミュレーションモデルを使って確認しました。


《今回の記事のあらすじ》
「1日の感染者数」のデータとして、実際にインターネット上で公表されている数値を参照し、重症病床使用数を仮想都市モデルA-bed14によりシミュレーションします。その計算結果は、厚労省が公表している重症者数の推移(オープンデータ)と比較的よく一致することが示されますが、〈計算値〉とオープンデータの〈公表数値〉がかなり異なる時期も見られます。改めて考えてみると、差が大きくなる理由は、死者数の公表数値と関係しているようです。これまで自分としては、「重症病床使用数」を計算しているつもりでしたが、今回の結果のグラフをよく見ると、実はシミュレーションしていたのは「重症病床使用数」に「死者数を加味した値」と表現すべきものだったかもしれないと気づきますオドロキ 。よくニュースなどでは、「本日の重症者数は前の日より3人増えて350人となりました」などと伝えられ、その数値と比較すると、1日毎の死者数の数値はかなり小さいので、重症者数がそれによって受ける影響は小さいかと思い込んでいましたが、重症者数の推移は、実は死者数の影響をかなり強く受けているということのようです。


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4 兵庫県の感染者数のデータを用いた「重症病床使用数(?)」のシミュレーション

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緊急事態宣言が首都圏でも解除されましたが、ニュースなどでは早くも各方面からの「リバウンドを懸念する声」などが取り上げられています。感染者の拡大→重症病床が再び逼迫という事態が警戒されているのだと思いますが、それではどの程度の感染者の拡大がどんなタイミングで起きると、重症病床は再び逼迫してしまうのでしょうか。

第1回~第3回の記事で使用した仮想都市モデルA-bed14、A-bed21、A-bed28、A-bed35 を少しだけバージョン変更したモデルで、「1日の感染者数」の公表値を参照しながら、「重症病床使用数」を計算により求めてみます。そして、計算された「重症病床使用数」の値が、実際に公表されている重症者数の値とどの程度似ているかを比較してみたいと思います。パソコン



〈計算例7〉兵庫県の「1日の感染者数」のデータ(NHKまとめ)を使用して、重症病床使用数の推移を 仮想都市モデルA-bed14、A-bed21、A-bed28、A-bed35でシミュレーションします。
その際、過去の記事ではaの値(1日の感染者数のうち、重症化しやすい感染者数の割合)を常に一定値(0.15)などとして計算していましたが、今回のシミュレーションでは、なるべく現実に即した数値に設定したいと思います。報道・専門家の報告などによると「新型コロナで重症化しやすいのは60代以上の方や基礎疾患のある方が多い」と言われいる点を踏まえ、今回は「感染者数に占める60代以上の割合(兵庫県・一ヶ月単位で集計)」をaの値として使用します。つまり1ヶ月毎にaの値は変化することになります。

《使用するデータの準備》
(1) 1日毎の感染者数
1日毎の感染者数の数値に関しては、インターネット上で公開されている数値(NHKによるまとめ)を用います。NHKの「特設サイト 新型コロナウイルス」のページから「都道府県毎の感染状況」のデータを2021年3月20日にダウンロードしました。今回のシミュレーションで用いる期間は、2020年6月1日~2021年3月19日です。




上のデータに関するNHKの利用規約は以下を参照してください。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/rules.html




(2) a=「1日の感染者数のうち60代以上の割合」
兵庫県庁HP内に公表されているオープンデータ(1日の感染者の年代の情報あり)を用いて1日の感染者数のうち60代以上の割合を算出します。作業の手間を厭わなければ、「1日毎に60代以上の割合」を集計してシミュレーションに使用することも可能と言えば可能ですが、それだと集計作業の手間がかなり増えてしまうため、今回は1ヶ月単位で「1日の感染者数のうち60代以上の割合」を集計し、これをaの値として用いることにします。集計結果は下表のようになりました。なお、下表をまとめたのは私個人ですので、集計ミスなどが含まれている可能性もあります。下表の引用は避けてください。







シミュレーションの最初の手順では、兵庫県の「1日の感染者数」のデータに、aの値をかけます。すると、「1日の60代以上の感染者数(概算)」が算出できます。(ただし、aの値は上述の通り、1ヶ月間一定と設定して計算しているので、実際に発表されている「1日の60代以上の感染者数」の人数を数え上げても、シミュレーションの計算値とは多少のズレが生じます。)
シミュレーションの最初の手順で算出される「1日の60代以上の感染者数」を、「重症化しやすい感染者数」とみなして、仮想都市モデルA-bed14、A-bed21、A-bed28、A-bed35(モデルの詳細説明は第2回の記事を参照)によるシミュレーションを進めて行きます。







(3) b=重症化率
今回、シミュレーションの計算過程で登場するbの値としては、「60代以上の感染者の重症化率」を用いることにします。厚労省のアドバイザリーボードの資料などから、2020年6~8月の全国の60代以上の感染者の重症化率、死亡率はそれぞれ、8.5%、5.7%と見積もられている点を踏まえて、b=0.085と設定します。




(4) 兵庫県の重症者数の推移
厚労省の「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報」のページから、都道府県毎の重症者数の推移データをダウンロードしました。データでは、2020年8月1日以降の日毎・都道府県毎の重症者数の情報を知ることができます。このデータとシミュレーションの計算結果がどの程度一致するのかが、今回の記事での最大の関心事です。





《シミュレーション結果》
上で説明した公表されている数値を参照して、重症病床使用数の推移を仮想都市モデルA-bed14、A-bed21、A-bed28、A-bed35で計算しました。計算結果を折れ線グラフで示します。また、計算結果と実際の公表数値との比較のため、厚労省のオープンデータ(兵庫県の重症者数の推移)も棒グラフで示します。なお、シミュレーションは2020/6/1以降の「1日の感染者数」のデータを使用して行いましたが、重症者数の公表数値と比較できるのが2020/8/1以降なので、計算結果も2020/8/1以降の分を示しています。




上のグラフより、「重症病床使用数(A-bed14で計算)」の推移〈計算値〉と、実際の「兵庫県の重症者数(厚労省オープンデータ)」〈公表数値〉を見比べて気づくことは、

①8月~9月頃・・・コロナ感染の第2波のピークの前後の時期で、〈公表数値〉はA-bed14あるいはA-bed21による〈計算値〉と比較的よく一致している。
②10月~11月半ば頃・・・コロナ感染の第2波が一度下がりかけたものの下げ止まりで推移している時期で、〈公表数値〉の方が4つのバージョンの〈計算値〉を上回る期間がしばらく続いている。
③11月半ば以降~12月初め頃・・・・コロナ感染の第3波の到来が顕著になってくる時期で、〈公表数値〉の上昇ペースと〈計算値〉の上昇ペースがよく一致している。
④12月中旬頃~2月上旬頃・・・・コロナ感染の第3波のピークを迎える前後の時期で、〈公表数値〉は上昇ペースがやや鈍っているのに対し、〈計算値〉は上昇を続け、ピーク時期の数値の差は30人ほどにまで広がっている。
⑤2月半ば~3月半ば頃・・・・〈公表数値〉は少しずつ減少していたが、3月に入ると下げ止まりや上昇が見られる時期、〈計算値〉の方は〈公表数値〉よりも急激に減少し、3月半ばに〈公表数値〉よりはやや遅れて、下げ止まりや上昇に向かう様子が伺える。

以上を整理すると、①や③のような〈重症者数の上昇局面〉においては、シミュレーションによる重症病床使用数〈計算値〉は、厚労省がまとめている重症者数〈公表数値〉とかなり一致した推移を見せていますが、②や⑤のような〈下げ止まり~再拡大の局面〉では、〈計算値〉は〈公表数値〉よりも減少ペースが速く、過小に評価してしまう傾向が見られます。個々の感染者の入院日数のデータなどを参照したわけではないので明確なことは言えませんが、②や⑤のような〈下げ止まり~再拡大の局面〉では、新規の重症者の発生数は多くはないものの、いったん重症者にカウントされた方の重症病床使用が長期化していて、重症者用ベッドがなかなか空かないというケースが一定数存在していることを示唆しているのかもしれません。ちなみに〈計算値〉の方は、A-bed35のバージョンが、重症病床使用の日数を35日と仮定していて、A-bed14、A-bed21、A-bed28などは、それよりも短い重症病床使用日数を仮定してのシミュレーションですから、現実の方では35日以上重症状態が続いてしまうケースもあるのかな、と想像されます。

ところで、④のような〈第3波のピークを迎える前後の局面〉においては、重症者数の〈公表数値〉の上昇ペースがやや緩やかになる一方、折れ線の〈計算値〉の方は高いピークを示しており、〈公表数値〉と〈計算値〉の差が30人前後にまで広がってしまう時期があります。このズレが気になって、何か理由があるのではないかといろいろデータを見比べているうちに、次のことに気がつきました。実は、このシミュレーションの重症病床使用数の〈計算値〉を現実の重症者数〈公表数値〉と比較する際は、重症者数の〈公表数値〉だけでなく、死者数の〈公表数値〉も合わせて見なければならない、ということのようです。

では死者数のデータは何を参照すればよいでしょう?
NHKがまとめて一般公開している「兵庫県の1日の感染者数」が記載されているファイルには、「各地の死者数_1日ごとの発表数」の情報も併記されています。この中から、兵庫県の1日ごとの死者数のデータをグラフにしました。なお、「兵庫県の死者数_1日毎」のデータは1日ごとの変動が大きく、そのままの値を眺めていても、増加傾向にあるのか減少傾向にあるのか分かりにくいため、「兵庫県の死者数_7日毎の合計値」に集計しなおしたものもグラフに示しました。





8月から11月までと比較すると、12月から3月頃にかけて、兵庫県内で死者数が大幅に増加していることが分かります。
また、7日毎の死者数のグラフを見ると、死者数には12月~2月の間に大きなピークが2度あったことも分かります。
そして、この2つの大きなピークの時期は、なぜか重症者数の〈公表数値〉と重症病床使用数の〈計算値〉の差が大きくなる時期にちょうど重なっているような感じもします。これは偶然でしょうか?おそらくこれは偶然ではなく、死者数が大幅に増えた時期に重症者数の増加ペースが鈍ったことは関係していると思われます。
もしかすると、死者数と重症者数のデータを一体的に見ていくと、シミュレーションで「重症病床使用数」と呼んできた値に近い数値が現れるのではないでしょうか?その点を大まかに確認するために、この記事ではひとまず、「兵庫県の死者数_7日毎の合計値」+「兵庫県の重症者数」(いずれも公表数値)の推移と、先ほどグラフで示したA-bed14などによる〈計算値〉を比較してみることにします。



ちょっと線が増えてゴチャゴチャしていますが、黒い折れ線グラフのピークの形に注目してください。1月~2月のピーク前後で、緑の棒グラフで示されている重症者数の〈公表数値〉の方は、上昇が緩やかになっている一方、黒い折れ線グラフで示されている重症者数の〈公表数値〉に7日間の死者数を加えた数値の場合は、値の上昇ペースは緩やかになってはおらず、A-bed14、A-bed21、A-bed28による3種類の〈計算値〉に囲まれるような範囲で推移しており、波の形(ピークの高さや位置)は〈計算値〉と〈公表数値〉とで、かなりよく似た感じに見えます。
このことから、これまで重症病床使用数(A-bed14による計算〉などと呼んできた数値は、実際には「重症者数」に「死者数_7日毎合計値」という数値に近いものであったと言えそうです。それにしても、「死者数_7日毎合計値」と「重症者数」を単純に足し算して出てくる数字というのは、どうも何を表わしているのかイメージがしづらいですね。なぜ「重症者数」に足し算する値が、「死者数_1日毎」ではなく、あるいは、「死者数_10日毎合計値」でもなく、「死者数_7日毎合計値」を選んだのかと問われると、ちゃんと答えられないような気がします。

でも、グラフを見る限り、シミュレーションの〈計算値〉は、公表数値である「死者数_7日毎合計値」とかなり関係が深そうに思われます。どうしてそうなるのかを考えるため、次回の記事では、現実の死者数の推移についてもう少し詳しく調べてみたいと思います。


《個人的な感想》
非常に単純な仮定を置いてシミュレーションした〈計算値〉ですが、公表されている重症者数や死者数の数値の推移を ある程度再現できていることが分かりました。死者数が少ない条件下では、シミュレーションで計算される重症病床使用数は、公表されている重症者数の数値と比較的よく似た推移になりますが、死者数が多い条件下では、単純にシミュレーションの計算結果を「重症病床使用数」と見なすことはできませんでした。このことは今回の記事をまとめる上で、かなり悩みのタネになりました。死者数のデータと重症者数の推移はかなり影響しあっているというのは、直感的にはすぐに浮かびましたが、死者数のデータと重症者数のデータをシミュレーションする中ではどう結びつけたらよいのか・・・・。
第1回~第3回までの「重症病床使用数」のシミュレーション結果も、「死者数が非常に少ないという条件の下で」という限定付きの話としてお断りを入れる必要も出てきそうです。

重症者数の〈下げ止まり~再拡大の局面〉においては、重症者数の〈公表数値〉の方を見ると、減少するペースは想像していた以上に緩やかであり、下げ止まるだけでなく、若干上昇する時期すら見られ、このシミュレーションで想定しているよりも、現実の世界の重症者数は減りにくいということを示唆するような、あまり喜ばしくない結果もチラリと見えてしまいましたなき。感染者数が下げ止まりのうちに「第4波が始まったらしい」現在の状況と、今回のシミュレーションで見えてきたことなどを組み合わせると、4月~5月は感染抑制のための相当な注意が必要になりそうです注意。  

Posted by やまやま at 21:10Comments(0)その他